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【ドリームレター】

最近、ショートストーリー(SS)にはまってます。

読んでみると結構おもしろいですよ。

昔の自分からの手紙と未来の自分からの手紙。

何十年後の自分に手紙を書いてみては?

【ドリームレター】

細川和信は人生に絶望していた。

今日で40代に突入したというのに、リストラされて丸一年、今だに無職の身だ。

毎日必死で職探しをしているが、次の仕事は一向に見つからない。

妻はとっくに愛想を尽かし、二人の子供をつれて実家に帰ったままだ。

とうとう、きょう離婚届を一方的に送りつけ、判を押して送り返せと言ってきた。

今までまじめに働いてきたきた結果がこれか。

「人生の落伍者」という言葉が、さっきから頭の中でぐるぐる回っている。

もう何をする気力もない。

彼はひとり、寒々としたアパートの一室に体を投げ出していた。

 ピンポーン…。

その時、玄関のチャイムが鳴った。

 誰だ一体。

のそりと起き上がった細川は、面倒くさそうに扉を開けた。

そこには、青い制服を着た見知らぬ男が立っていた。

「ドリームレターをお届けに来ました」

とってつけたような明るい声を張り上げる。

「ドリームレター?」

何だ、おかしな押し売りかと細川は顔をしかめた。

「はい、30年前のあなたから、現在のあなたへあてた手紙です」

「なんだ、それ」

「覚えていらっしゃいませんか。30年前にドリームパークで書かれた手紙です」

「ドリームパーク…」

その言葉を口にした途端、細川の胸を甘酸っぱい感触が満たした。

なんと懐かしい響きだろう。
それは彼が小学生の時、家からいくつか離れた駅の大きな町にできた遊園地の名だった。

開園の日に、親に連れられて行ったことがある。

そう言えば「30年後の自分に手紙を出そう」というコーナーがあって、そんなものを書いたような気がする。

「あのドリームパークの…」

「はい、そうです。お約束どおり30年後にお届けに参りました。それでは」

一礼して男は去っていった。

 へえ、本当に届けてくれるものなんだなぁ。

細川は軽い興奮を覚えながら、立ったまま封を開けた。

どんなことを書いたかなど覚えてもいない。

子供らしい、角ばった字が目に飛び込んできた。

「40歳の僕、元気ですか。40歳のことなんてちょっと想像できないけど…。

僕の夢はプロ野球のカントクになることです。30年後の僕、なってるかなぁ」

その瞬間、細川の目の前に、あの広々としたドリームパークの情景がよみがえった。

さまざまな展示館や乗り物が彼を待ちうけ、あれもこれもと時間を忘れて遊びまわった。

本当に、夢のように楽しかった。

そうだ、あのころ俺は野球が大好きで、大きくなったらプロ野球の選手になりたかったんだ。

ははは、と細川は力ない笑い声を上げた。

自分の前に無限の夢と可能性があったあの頃。

努力すればなんでも叶うと信じられた。

無邪気な字の躍る手紙を見ながら、今の自分の惨めさが一段と身にしみた。

夢どころか仕事も家庭も失い、なんのために生きてきたのかさえ分からない。

この数年のつらい日々が頭をよぎる。先の希望など何もなかった。

おまえはこの30年、どう生きてきたのかとその手紙は問うていた。

自分は一体、今までに何を為してきただろう。

ただ虚しさだけがこみ上げる。どうしようもない脱力感に体が襲われた。

卒然として「死」という文字が頭に浮かんだ。

彼はふらふらと台所に行くと、流しの下から包丁を取り出した。

生きてたって、もう仕方ないさ。この一突きで楽になれる。

鋭い切っ先を見つめ、柄を握る手に力を入れたその時、またピンポンと玄関のチャイムが鳴った。

「なんだよ、一体」

荒々しく扉を開けると、さっきと同じ青い制服を着た違う男が立っていた。

「ドリームレターをお届けにきました」

同じ台詞を言うと男は細川に一通の手紙を渡し、足早に去っていった。

わけがわからずその封筒に目を落とすと、そこには「30年前の私へ」と書かれている。

「30年前って…。どういうことだ」

あわてて扉を押し開け呼び止めようとしたが、男の姿はもうない。

封筒の裏を返すと、細川和信と紛れもない自分の字で署名がある。こんなものを、いつ書いたのか。

訝しげに彼は封筒を開けた。

「10歳のとき、このドリームパーク開園の日に来たことが、つい昨日のことのようだ。

あれからもう60年がたつとは。

70歳を迎えた今日、ドリームパークが閉園するという噂を聞き、懐かしさにかられて妻とここに立ち寄った。

10歳のときには果てしなく広く大きく思えたこの場所が、いまおとずれてみると、こんなにも小さかったのかと戸惑いを覚えている」

細川はぶるぶると震える手で便箋を持ち、茫然と文字を追った。

「<30年後の自分へのドリームレター>のコーナーは、きょう一日の特別な催しとして<30年前の自分への手紙>を募っていた。

遊び心を出して、私も書いてみることにしよう。

今までの人生の中で一番辛かった、30年前の私へ。

あの頃、私はそれまで培ってきたもの全てを失い、絶望のそこに落ち入っていた。

いつ明けるか分からない、深くて暗い絶望の闇だ。本気で自殺を考えたこともある。

けれど、あのときに死なずにいて本当に良かった。

40歳を超えてから今の妻と巡り会い、二人で小さな店も持った。

人生の後半に得た望外の幸福を、どうやって感謝したらいいだろう。

今私は、あの頃の自分に、よく堪えたなと声をかけたい。

頑張れよ、もう少しの辛抱だ、と。

私には、人間の人生そのものがドリームパークだという気がする。

ここは今日で閉園だが、私たちはもうしばらく歩き続けることにしよう。

私と妻の人生のドリームパークには、まだまだ見たいもの、行きたいところがたくさん残っている」

文字は涙でにじみ、インクの青い輪をつくっていった。
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那須塩原市で防災・防犯の会社を経営しております。安心・安全・信頼を通して地域のお役に立てる会社にしようと奮闘中です。少しでも皆様のお役に立てる情報が流せたらと考えております。

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